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【ガイド特集】石ころひとつでかける、好奇心の魔法〝きれい〟や〝面白い〟の向こう側へ連れていく、知の冒険の案内人

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【ガイド特集】石ころひとつでかける、好奇心の魔法〝きれい〟や〝面白い〟の向こう側へ連れていく、知の冒険の案内人

エコツアーや環境教育などを実施しているNPO法人「隠岐しぜんむら」。福田貴之さんはツアーガイドを務めている。島ならではの自然が楽しめる海士町だが、福田さんとめぐると見え方が劇的に変化する。目に見える風景の裏に広がる、奥深い世界。そこへ連れていくためのガイドのこだわりや、島への思いなどを語ってもらった。

くしゃくしゃっと目尻にシワを寄せ、目を細める。第一印象は〝笑顔〟の人。ほがらかそのもので、顔を合わせたその瞬間、相手を安心させる不思議なパワーがある。

 福田貴之さんは海士町(あまちょう)のNPO法人「隠岐しぜんむら」のスタッフ。エコツアーのガイドをはじめ、地域の子ども向けの自然体験教室の指導、環境教育講師、野生生物・植物の調査など幅広く担当している。

 

移住者が多い海士町。福田さんもその一人で、2023年で移住9年目となる。出身は福岡県。
幼い頃から動物や昆虫に興味を持ち、図鑑を読み込むのが好きな子どもだった。好きが高じてオーストラリアのタスマニア大学に留学。環境学を中心に動物と植物について学んだ。帰国後、自然に関わる仕事を探し求める中でたどり着いたのが隠岐の中ノ島・海士町だった。

「フェリーを降りた瞬間、『ああ、島っていいな』という気持ちが自然とわきあがりました」

 

福田さんは、初めて海士町を訪れたときのことをそう振り返る。好きな分野に打ち込んで過ごしたタスマニアも島だったため、懐かしさを感じたのだという。同時に強く心を打ったのは、島の豊かな自然、海の美しさ。そして、動植物の多様さだ。

 

「僕が子供時代を過ごしたのは開発された住宅地で、生き物に触れることはほとんどなかった。あの頃テレビや図鑑の中で見ていた存在が、隠岐にはそこらじゅうにいるんです。ちょっとそのあたりの海岸に行けば、いろいろな魚や貝や蟹が見つかる。しぜんむらに勤めてからは調査や子ども向けの教室で採集・観察などもしていますが、仕事なのに楽しくて仕方ない!」

話し始めると声が弾み、目や表情に好奇心の光が輝く。本当に自然や生き物が好きなのだと、まとう空気からも感じられる。ガイドとしてのモットーは「自分が感じた〝面白い〟をシェアする」。理屈ではなく、自身が体験して得た感動や学びを、島を訪れた人に伝えるよう心がけているそうだ。

しぜんむらのガイドツアーは季節やニーズに合わせて実施される。山歩きやパックラフト、カヤック、バードウォッチングなど内容は多彩だ。アウトドア初心者でも気軽に楽しめるのはEバイク(電動スポーツ自転車)ツアー。福田さんと一緒にEバイクで1日かけて島内を巡り、走行中でもヘルメットに装着されたインカムで通信しながら解説を聞くことができる。

「自転車なので、ルートに面白いものがあればサッと停車できるのがポイント。生物や植物、地形が興味深いスポットなどを実際に見ながら解説できます」

 

車での移動だと見落としてしまいがちな島独自の〝面白い〟を福田さんと一緒に見つける時間は、好奇心を刺激される知的な冒険だ。

「道中で固有種などを見つけてしまうと、つい熱が入っちゃって…。話しすぎて時間配分を忘れそうになります」

 

福田さんはちょっと困ったように眉を下げて笑う。特に昆虫の解説はヒートアップしがちだと話す。

 

「例えば、アオハナムグリという甲虫。多くの地域では緑色ですが、隠岐 島前にいる亜種は紺色なんです。以前ツアー中に出会ってしまって、『ここにこんな珍しい虫がー!』と僕一人だけハイテンションに…。僕の名刺にプリントしてあるのは、その時撮影した個体の写真です」

解説を聴く側としては、そんな情熱的な面こそが福田さんと旅する魅力のように感じる。昆虫の説明をするときは、もともと明るい声がワントーン上がり、ほんの少しだけ早口になり、目がキラキラと輝く。生き物への愛がほとばしる話ぶりに引き込まれ、いつまでも、いくらでもこの人の話を聞いていたいと思わされてしまう。

Eバイクツアーは、海士町の自然や風景を体で感じながら移動できるのもメリットだ。例えば、菱浦港から明屋海岸方面へ向かうコース。島の北側にある諏訪湾の穏やかな景色を眺め、優しい風に頬を撫でられながら心地よく走ることができる。

 

道中、平地の田園地帯がある。一見どこにでもある田舎の風景だが、隠岐諸島・島前の中でこれだけ大きな平野があるのは海士町だけなのだそうだ。そしてここが、海士町の〝面白い〟のひとつなのだと福田さんは言う。

「海士町の平野はかつて湾でした。島の東側で火山が爆発し、マグマが広がって湾が埋まり、平らな大地になったんです。マグマの流れにそって緩やかな傾斜になっているんですが、Eバイクなら微妙な変化を意識しながら巡ることができます。」

 

「ここに平野が生まれたことで田畑を作れるようになり、食糧の不安が解消され、豊かな集落ができ、島の生活拠点になっていった。隠岐へ流刑となった人たちも、島民と共に農作業に従事したと聞きます。島の成り立ちと自然、歴史、の営みのつながりを肌で感じられるのも隠岐の〝面白い〟なので、ぜひ楽しんでもらいたいです」

 

ガイドブックに掲載されるような観光スポットも、福田さんと訪れると見え方がガラリと変わる。明屋海岸もその一つ。ビシャゴ岩と呼ばれる巨岩がそびえたち、ハート型の穴が空いていることからカップルにも人気の景勝地だ。

「ハートがあって素敵だね、だけじゃ済まない場所なんですよ。キレイだけじゃない〝裏の価値〟をお伝えしたい」

 

そう話す表情は、とっておきの宝物を見せる子どものようだ。

 

一緒に海岸へ行ってみると、福田さんはそのあたりに落ちている黒い石をヒョイと拾った。

「これは玄武岩。島前の地質に多く見られ、一回の噴火で地形が出来上がったことを裏付けるものです。一方で、向かい側に見える島後は噴火を繰り返してできたため、多様な石が見られる。ほんの10kmしか離れていないのに、成り立ちが違うんです」

 

ビシャゴ岩へ続く遊歩道では、岩の隙間から生える植物を指差す。

 

「ここで群生しているのはダルマギクで、大陸系の温暖な気候で育つ植物です。また、こちらには温暖な地域で育つハマビワも生えていますが、ここで繁栄できるのは、暖流の対馬海流のおかげで冬でも暖かいから。でも、すぐそこにある島後にはほとんど見られません。こんなに近いけれど海流の関係で気候が違う。それが植生に現れています。このように、隠岐は様々な環境の植物が見られる不思議な場所なんです。」

岩に群生しているダルマギク

本来は温暖な地域で育つハマビワ

 

歩いていると、数歩進むごとに「これ、なんだと思います?」「あそこに見えるのは、実は…」。話題は植生、地形、気候、海流、さらには島の生活、神話、隠岐諸島の各島の文化的なつながりなど、どんどん広がっていく。案内板や観光パンフレットにはない話ばかりだ。中には居酒屋で近所のおじいちゃんから聞いた昔語りや風土の話も。

 

「生活の中で見聞きするものすべてがネタなんですよ」と笑うが、日々の暮らしや島の人にも愛情と好奇心を持っているからこその引き出しの広さなのだろう。

一方的に説明するばかりではなく、合間に謎かけをはさんだり、こちらのちょっとした疑問を対話のなかで掘り下げることも。絶妙な加減で知的好奇心を刺激され、目に見えるすべてが気になり始めていく。

 

福田さんとの対話から得た知識によって、徐々に視界が開けていくような心地になる。気づけば明屋海岸の景色の向こう側に、太古の地球や遠い大陸を見ていた。福田さんにかかれば、石ころも小さな草花も、時空をこえる魔法のアイテムになってしまうのだ。

海士町を含め隠岐は寒冷地と南方系の植物が混在し、本州なら低地と高地で生息域が決まっている生き物が同じ地域に生息している。そこには地形の成り立ちなど、地球の営みが密接にかかわっている。福田さんの言う〝面白い〟に満ちた場所だ。

 

「自然と土地の成り立ち、人の暮らしの繋がりを伝えたい。それこそが海士町を含めた隠岐の魅力だと思うので」

 

隠岐を訪れるたびに福田さんにガイドを頼んだり、口コミで評判を聞き指名する人も多い。福田さんに案内してもらっていると時間がいくらあっても足りず、リピーターがいるのも頷ける。

 

「お客さんに、あんた本当に隠岐が好きなんだね、と言われることがよくあります。隠岐は自然の中の一部として暮らせる場所で、好きだから住んでいるんですよね。そんな場所から得たことを皆さんにお伝えできればと思います」

 隠岐はどこへ行っても美しい景色に出会える。その美が何に裏打ちされたものなのかを知れば、より豊かな時間が過ごせるだろう。ガイドブックには載っていない〝面白い〟の向こう側を見せてくれる福田さんの魔法に、ぜひ一度かかってみてほしい。

 

 

 

 

My Favorite/金光寺山

My Favorite/金光寺山

「隠岐しぜんむら」がある金光寺山では、寒冷地と暖地の植物が同じ場所に生育している様子が見られます。また、山の中腹ではなく上の方に湧水があるという地形的な特徴も。どちらも島の大地の成り立ちに秘密があります。生態系の面でもジオパーク的にも隠岐の不思議を感じられる、すごくワクワクする場所。中腹の広場からは明屋海岸方面に平地の農村が、反対の豊田地区方面に漁村が広がっているのが見渡せます。地形に合わせて異なるスタイルになった地域を一望でき、島の暮らしを感じられるのもいいですね。僕は田んぼの風景が好きなので、田園を眺められるふもとのスポットもお気に入りです。

 

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ー★追記-----
隠岐のガイドは、各自がユニークな専門性を持つプロフェッショナル。
彼らとめぐるツアーは、隠岐諸島が紡いできた数万年の時間を感じられるものです。

<大地の成り立ち>、<独自の生態系>、<人々の営み>をベースにした案内で、島に暮らす人だからこそ伝えられるストーリーが最大の魅力

隠岐のガイドは、はるばるやってくる旅人の皆さんに、島の情念を深めてもらう伝え手です。
圧倒的な地球のダイナミズムも、小さく受け継がれる人々の営みも、見るだけでは分からないことばかり。
ガイドツアーに参加することで目の前の景色が彩られ、島の解像度は上がります。
時間をかけて来る場所だから、心がよろこぶ豊かな旅を

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