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隠岐の高校生が作る「幻の鯖缶」。製造工程と入手方法に迫る

    • 隠岐の島町
隠岐の高校生が作る「幻の鯖缶」。製造工程と入手方法に迫る

島根県隠岐郡は海の幸の宝庫。新鮮な魚介類は多くの人の舌を魅了して止みません。古くは朝廷への献上品としても選出されるほど。そんな隠岐には島民が口を揃えて「美味い!!」と絶賛する隠れた加工食品があります。

それは島根県立隠岐水産高等学校(以下、隠岐水)の生徒がつくる鯖缶。なにを隠そう隠岐水の関係者である私だから知り得る情報と共に、その秘密に迫っていきます。
(写真奥に並ぶバイの缶詰も相当うまいんです...)

取材 川上主税(かわかみちから)
大阪生まれ大阪育ち、隠岐の島町在住2年目。工業高校から初等教育学部へ進学する稀有な学歴を持つ。小学校教諭を経て機械設計に十数年携わる。毎日が単調なサラリーマン人生に終止符を打ち、再び教育に関わることを決意。どうせなら憧れであった田舎で働きたいと思い、2020年1月に隠岐に移住。隠岐水産高校で魅力化コーディネーターとして学校PRや生徒募集を担う。

隠岐水産高校とは

隠岐の島町西郷港から東に約2キロ、東郷地区にある隠岐水は、創立114年(2021年現在)を迎える伝統ある専門高校。船や航海について学ぶ「海洋システム科」と、増殖や食品加工について学ぶ「海洋生産科」があります。

海洋システム科では、隠岐〜ハワイ間を大型実習船で往復し、サメの生態調査およびマグロの捕獲などを通して、船についてのノウハウを実践的に学びます。

海洋生産科は、ワカメの種苗生産やヒラメ、カキの養殖など海の生き物好きに人気の学科です。特色があり、環境にも恵まれていることから、全国から越境してくる生徒も多くいます。

そんな隠岐水の海洋生産科では食品製造実習も行なっており、そこで主に製造しているのがこの記事の主役「鯖缶」です。

隠岐水では、鯖の水煮缶と味付け缶など年間約2万缶、重さにして5トン製造しています。一見、数が多そうですが、販売店に並べばすぐに完売し、島民でもなかなかお目にかかることができません。

授業の一環として製造するため、これ以上製造時間は増やせず、ひとつひとつ高校生の手で丹精込めて作られているため、製造スピードを上げることもできません。

どうやって作っているのか?

その人気と希少性をもってすれば「幻の鯖缶」と言っても過言ではない隠岐水の鯖缶ですが、島民でも製造方法を知る人は、ほとんどいません。

それではここからは特別に、高校生による「鯖缶」づくりの工程を特別に披露します。

① 粗く処理された鯖を、丁寧に内臓や血合いを除去する。


② 既定の長さにカットし、重さを規定量に分け、秘密の液に浸す。


③ 水洗いした缶にほどよい隙間を作りながら、丁寧に詰めます。


④ 密封する前に専用の機械で特別な処理をします。


⑤ 調味液を流し込みます。


⑥ 密封し、加圧殺菌釜で加熱します。


②や④の工程を行うことで、鯖の雑味が抜け、旨味だけが残った上質の仕上がりになります。が、ここだけは校外不出とのこと。

≫実習の様子を垣間見れる動画はこちら新しいタブで開きます

実習製品に込める生徒の思い

生徒たちは「鯖缶」をどのような想いでつくっているのでしょう。隠岐水内部の人間である私が、実際に生徒たちから聞いた声を紹介します。

「製造作業は分担して行います。その日、担当することだけを考えて、作業するよう心がけています。例えば、内臓や血合いが少しでも残ると、それが雑味になって缶詰に溶けだしてしまいます。作業中、難しいことを考える余裕はありませんが、とにかく手を抜かず、丁寧に取り組んでいます。」(海洋生産科食品生産コース Aさん)

「実習は立ちっぱなしの単純作業なので、最初はとてもつらく大変です。やっていけるかなと不安になりました。しかし、すぐに慣れてしまいます。慣れれば、前回実習した時よりも手さばきが良くなっている自分に気付いたり、こうすれば綺麗に仕上がるんだ、と自分の中で少しずつ改善しています。その小さな発見が楽しいです。」(海洋生産科食品生産コース Bさん)

「食べることが大好きです。鯖の尾っぽや製品化できない傷ものを集め、圧力なべでじっくり炊き上げたものを実習終わりに、食べることがよくあります。何度食べても飽きないです。ご飯と混ぜればそれだけで超一級品!!是非混ぜご飯もお試し下さい。」(海洋生産科食品生産コース Cさん)


作業への思いだけでなく、食べ盛りな高校生らしい回答もありました。

隠岐水の鯖缶には特別なものを使用していません。親しみやすい素朴な味です。しかし魚に対しては舌の肥えた島民でも、口を揃えて「美味しい」と話します。この味が出せるのは生徒たちの思いが詰まっているからかもしれません。

どこで買えるか

「幻の鯖缶」だけあって、販売場所も限られています。この記事を読んでくれたあなたには、特別に販売しているスポットを紹介します。

隠岐世界ジオパーク空港
大阪ー隠岐、出雲ー隠岐を結ぶ空の玄関口。飛行機で来られる方にはこちらがおすすめ。

隠岐郷土館
明治時代の隠岐郡役所を移築・修復した洋風館で県指定有形文化財。民俗文化財をはじめ竹島に関する貴重な資料などを展示。隠岐の島の中心よりやや北にありますので、ドライブを楽しむ方におすすめ。



京見屋分店
おきのしましまビールの他、島根県産クラフトビールも販売する地域の人が安らぎを求めて集う拠点的な雑貨屋。西郷港から歩いていける距離にあるので、船旅で隠岐に来られる方におすすめ。



「幻の鯖缶」と称される理由が、お分かりいただけましたでしょうか?
一つひとつに生徒の思いが詰まった生産量の限られた缶詰。営利目的ではないため、価格もお手頃です。

一度味わうと病みつきになる隠岐水の鯖缶。
購入できれば、超ラッキーな隠岐水の鯖缶。

ぜひ旅のお土産に探してみてください。

**とってOKI簡単鯖缶パスタ**


スライスしたニンニクと、白ネギ、ほぐした鯖缶を汁ごといれてオリーブオイルで炒め、パスタのゆで汁を大さじ2程度入れひと煮立ちさせます。1分短めにゆでたパスタを入れ、お好みでねぎ、鷹の爪を入れ和えます。お皿に盛り付けて黒コショウ少々を散らす。鯖の美味しさが味わえる絶品パスタです。