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サンセットクルーズで西ノ島から知夫里島の赤壁への単独レポ

    • 知夫村
サンセットクルーズで西ノ島から知夫里島の赤壁への単独レポ

隠岐・西ノ島町で実験的に実施されたサンセットクルーズの乗船記。 夕陽に照らされた赤壁(知夫里島)を拝むことができるのか? おひとりさまで眺める夕陽に何を想う?

取材・竹田 英司
元・Vリーグ男子JTサンダーズ広島マネージャー。現・西ノ島町観光協会職員。全国通訳案内士(英語)。2021年6月より西ノ島町在住。

隠岐・西ノ島町の浦郷港から、隣の知夫里島「赤壁」と夕陽を海から眺める、サンセットクルーズが、2021年10月に試験的に実施されました(隠岐観光株式会社主催)。

この記事では、ロマンチックなクルーズにひとりで乗り込んだ乗船記としてお届けします。

ちなみに最近、浦郷港にイルカが棲み着き、地元では「浦ちゃん」と名付けようかという話もあるとかないとか。夕陽とともに浦ちゃんにも逢えるといいな…。


普段は国賀巡りの観光船として利用されている小舟に乗り、日の入り時刻に合わせて浦郷港を出発。乗客は10名ほど、舟最後部のデッキで潮風を浴びます。寒くもなく快適でしたが、座って海を眺めるには体をひねる必要があり、腰痛持ちの私には少々の厳しさも…。私の正面には女子大生と思しき若い娘さんのグループ。映画『タイタニック』のレオ様ならまだしも、こんなおっさんに見つめられても嫌だろうなあ…、とひたすら体をひねって海を眺め続けました。

出港すると程なく船長さんがマイクを握り、島の成り立ちや歴史など、観光案内をしてくれました。「向かいの知夫里島には人間の3倍以上もタヌキが棲んでいるんですよ」というアナウンスに船内はほっこり気分。

「左に見える中ノ島・海士町はこの地に流された小野篁(おののたかむら)の『わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕(こ)ぎ出でぬと 人には告げよ 海人(あま)の釣り舟』で知られ…」と、隠岐に流された参議篁(小野篁)の短歌が紹介されました。

中学生の時に習った百人一首に懐かしく思うと同時に、歳を重ねて作者の気持ちに共感できるようになった自分に気づきました。島の歌に共感できるようになるのなら、歳を取るのも悪くないものです。短歌の「海人」は「漁師」という意味だと学校で習いましたが、もしかすると海士町の町名の由来なのかもしれないなあ…と、思いを馳せながら赤壁へ向かいました。

途中、西ノ島と知夫里島の最も接近する付近で上を見上げると、送電線が架かっていました。船長さんによると、西ノ島で発電された電気を知夫里島にこの送電線経由で送っているそうです。島同士のつながりを感じた次第。送電線の下をくぐると、いよいよ外海へ。穏やかだった内海とは打って変わって、小舟は木の葉のような波乗り状態に。幸い、酔ってダウンする乗客はおらず、舟はついに赤壁へ到着。


娘さんたちは赤壁を指差しながら「ケーキみたいで美味しそう」と歓声をあげていました。「崖の上に牛がいるよ。落ちないかな? 大丈夫かなあ?」と楽しそうに話しているのを聞いて、「柵がないから、崖から落ちる牛が時々いるらしいよ」とおじさんは心の中でつぶやきました。

赤壁はなぜ赤いのか。「溶岩のしぶきにふくまれていた鉄の色で、この場所に火口があった証拠」(※)なのだそうです。

※『見て!知って!守って! 隠岐ユネスコ世界ジオパーク』p.8 
 (隠岐ユネスコ世界ジオパーク推進協議会/平成28年10月 改訂三版発行)



赤壁を照らす雄大な赤い夕陽が沈んでゆく





海況次第ですが、赤壁近くの洞窟にも入ってくれました。揺れる小舟でスマートフォンで撮影した私の下手な写真では、洞窟の迫力は伝わらないですね。これを読んだ皆様は、是非とも、迫力ある素敵な写真を撮っていただきたいものです。


前方の2人掛け席で窓を開ける時は、前後の人への配慮をお忘れなく。窓を全開にしてしまうと、前後の方の視界をガラスで遮ってしまいます。赤壁へ向かう際は船の左側に陸地があるので、混んでいなければ左側座席がおすすめ。

赤壁・夕陽・洞窟を堪能してサンセットクルーズ御一行は帰路につきました。内海に入るまでは波が高かったのですが、娘さんたちは「終わらないジェットコースターみたいだね」と最後までお元気でした。娘さんたちに手招きされて、小学校低学年くらいのお子様がデッキの座席に膝立ちになって夕陽を眺めているのを見ると、自分も童心に帰って膝立ちで夕陽を眺めたい衝動に襲われました。

船が浦郷港に帰港する直前、船長さんのアナウンスで「左手に見える赤ノ江(しゃくのえ)地区、ここは隠岐に流された後醍醐天皇が西ノ島を脱出される際、手にされた笏(しゃく)を落とされ、その笏がそこの入り江に流れ着いたことから『しゃくのえ』と呼ばれるようになりました」とのお話を聞き、近いうちに赤ノ江地区を散策してみよう、と思い立ちました。

浦郷港に戻って船長さんに、「今回は試験的なサンセットクルーズとのことですが、今後の見通しは?」と尋ねると、「2022年の春にもう一度テストしてみて、その結果を踏まえて順調なら22年の秋から本格的に実施する予定です」とのことでした。興味を持たれた方は時期が近づいたら、隠岐観光株式会社や西ノ島町観光協会のホームページ・SNS等をチェックしてみてください。

残念ながらイルカの「浦ちゃん」には出逢えませんでした。噂ではバブルリングを見せてくれる芸達者だそうです。皆様がサンセットクルーズに参加される際は、浦ちゃんがお出迎えしてくれたらいいですね。私もいつか浦ちゃんに逢いたいな。もしも願いが叶うなら、愛する女性と一緒に舟に乗って。

2021年夏に観光船から撮影されたイルカの「浦ちゃん」   写真提供:隠岐観光株式会社